edgeが考える社会起業家とは?


 

特定非営利活動法人edge


最高顧問 田村太郎

(本内容は、2010年6月6日開催の「起業支援プログラム」説明会での講演内容をもとに事務局が編集)

 

■edgeとは?

edgeとは、「entrance for designing global entrepreneurship」の頭文字をつなげたもので、「グローバルな視野に立つ起業家をデザインする玄関口」という意味が込められています。若者たちに、グローバルな視点を持った起業家になってもらいたい。そのデザインのための入り口がedgeです。また、玄関ではあるのですが、玄関の奥にあるものも感じ取って頂きたいと思っています。

 

edgeは2004年から若手社会起業家を育成するコミュニティをつくろうという趣旨でスタートしました。私たちが変えたいのは社会です。そして、社会は一人では変わらない。みんなで変えるものだと考えています。だから、一緒に社会を変える仲間を作ろう、集まる場を作ろう、コミュニティを作ろうということで、これまで活動を続けてきました。

edgeのメンバーには、社会起業家の第一人者といえるようなメンバーが何人かいます。しかし、第一人者というのは後に続く人がいて第一人者なんです。後に続く人がいなければ、ただの変わり者。後に続く人を増やしていくことによって社会起業家の裾野を広げようと、6年前から社会起業家を育成するビジネスプランコンペを手がけてきました。

 

普通、コンぺというと、代表者が壇上でプレゼンしてという印象が強いと思いますが、edgeでは、一次審査、二次審査、三次審査を通って、ファイナルに進むまでに、結構な時間があります。エントリーからおおよそ半年くらいの時間をかけてファイナルにまで至るわけなんですが、その間に各プレイヤーのビジネスプランをブラッシュアップします。プレイヤーと先輩起業家である我々が一緒にプランを磨いていくところが、よそとは違うところです。それは、私たちはコンペをやりたいのではなく、社会起業家のコミュニティを作りたくてやっているからです。時には、山口県や愛知県などプレイヤーの活動の現場に出向いて助言したりもします。しつこくお付き合いするのがedgeのメンバーの特徴です。「コンペで賞金取ったろう」という気持ちの人にはちょっとつらいかもしれない。「このおっさんたち、めんどくさいな」と思うかもしれませんけど、いろんな人の意見を聞いて、社会を変えるためのプランを磨いていって欲しい。そういう場としてedgeを認識してもらえたらなと思います。

 

なお、これまで、edgeの活動の大半は、ビジネスプランコンペの実施とその後のプレイヤーの支援が中心だったのですが、今年は、国(内閣府)の「社会的企業支援基金」活用するなど、コンペ以外の支援プログラムも拡大することとなりました。

 

 

■ 社会起業家とは?

edgeは、「社会起業家」をめざす「若者」に向けて、「起業支援プログラム」を行うNPOです。

 

では、「社会起業家」とは何かについて考えていきたいと思います。

 

まず「社会」、いったい「社会」ってなんでしょう。

例えば、地域社会や格差社会にも社会という言葉が出てきますね。edgeでは「社会」を「共通の課題を持ったグループ」と捉えています。そして、この「社会」の課題に向き合っていこう、という人を増やしたいのです。

では、どのように向き合う人か? それは、事業的な手法を通じて向き合っていく人です。「こんなサービス、こんな商品があれば、課題が解決するんじゃないか」という発想で、事業的に解決する人です。共通の課題を持つグループ、つまり社会の課題に対して、チャリティー(寄付など慈善行為)だったり、「こんな課題があるんだ」という勉強するだけで終わってほしくない。事業的な手法で課題解決をしてほしいんです。edgeでは、そういう人を「起業家」だと捉えています。

社会起業家とよく似た言葉にNPO、ボランティアなどがありますが、それほど事業的手法でなくても活動できるものがNPOです。チャリティーや勉強会でも構わない。でも、edgeでは、事業的手法で取り組む人を増やすことで社会を変えようと活動しています。

では、次になぜ社会起業家が必要なのかを考えていきましょう。世の中を見回してみると、今までの社会の課題というのは、政府や企業が、いろんなサービスを提供して対応してきました。ところが、例えば、今の政府が提供しているサービスでは、課題が解決されない人がいたり、企業が提供するサービスや商品がなくて、困っているという人もたくさんいます。なぜかそうなるのか。行政が提供する均質的なサービスではカバーしきれないが、そうかと言って企業がカバーするには、マーケットが小さく、利益が少ないためにサービスが十分でない。世の中というのは小さなニーズからなる集合体ですが、やはり取りこぼしも出てくる。そうなると取り残されていくニーズもあるわけです。

そこで取り残された課題をカバーしていかないといけない。そこの隙間を埋めているのがNPOやNGOです。だから、NPOやNGOがすごく注目されてきました。一方でNPOやNGOが「何をするのか」というのが大事なところなのですが、それが伝わってこないNPOもたくさんある。今、社会起業家が注目を集めているのは、社会にある課題に対して、事業的な手法で具体的に解決してほしい、ということを多くの人が望んでいるからでしょう。

 

■ 若者とは?

edgeは「社会的起業家をめざす若者」を支援するNPOです。ここでいう「若者」には、年齢はあまり関係ないと思っています。二十歳でも若者とは呼べないような人もたくさんいます。どういうことかと言うと「若者」とはなにかチャレンジしようとしている人たちであって、そういう人たちを応援していきたいと私たちは思っているわけです。

具体的には、「チャレンジしようとしているけれども、チャレンジに何が必要かわからない」という人、または「チャレンジに何が必要なのかわかっているんだけれども、まだそれを持っていない」という人、あるいは「失敗を恐れない」、「可能性がある」、そういう人たちのためにedgeではコンペや支援の枠組みをつくっているわけです。失敗を恐れる人、自分に可能性がないと思っている人にはedgeに参加することはできません。

第一回のedgeコンペでは、61歳の方から応募があり、ファイナリストとして残りました。若者のためのビジネスプランコンペと謳っていたのですが、それでも応募されたんです。すごいチャレンジです。逆に、チャレンジしていない若者は評価することはできません。

 

■ 起業とは?

さて、あらためて「起業」について述べます。起業を志す人たちには、課題を解決するという意識を強く持ってほしいと考えています。Aというコミュニティには「ある」が、Bというコミュニティは「ない」もの、例えば、日本語がわかる人には「ある」けれども、わからない人には「ない」もの。それらの「ない」ものを「ある」状態にすることで課題を解決することができます。あるいは漠然とした「思い」ではなく、「手や目で感じ取れるもの」にしていく。具体的にいうと、商品やサービスにしていくということです。課題を解決するためには、漠然としたものでは解決できません。商品やサービスというもので解決してもらいたいのです。

商品やサービスというのは、常に同じ品質のものでなければなりません。「昨日はよかったけど、今日はダメ」とか、「ある」うちはいいんだけれども、なくなったら、また元に戻ってしまうようでは、不安定だし、一時的な解決に終わってしまいます。継続的に課題を解決するのであれば、安定供給できるものでなければなりません。

私は、3回ほどアフリカに行ったことがあります。アフリカの様々な課題を解決するのことが社会起業家に求められています。長年、さまざまな取り組みがアフリカで展開されてきましたが、まだアフリカは貧困から脱出できないでいます。それは私たちのアフリカに対するアプローチが間違っていたからでしょう。チャリティーも大事だが、チャリティーだけでは課題は解決できない。継続的に課題を解決する方法が提供できていないということなのです。同じような課題は私たちの身の回りにもたくさんあります。継続的に課題を解決するためには、社会起業という取り組み方でアプローチしてもらいたいと考えています。

 

■ 社会起業家に期待すること

社会起業家に対して期待するのは「社会変革」(=ソーシャルチェンジ)です。最近では「ソーシャルベンチャー」とか、「チェンジメーカー」など色んな形で社会起業が喧伝されていますが、実際、日本でチェンジしているのは総理大臣ばかりです。変えるところを間違っています。これでは、なかなか社会はよくならない。何を「チェンジ」するのかが大切なところです。

最近、様々なところで「これが社会起業家だ!」という記事を見たり、話を聞いたりすることが多くなりました。最近よく取り上げられているのは、今の社会で生きにくい人を、社会に適合させる事業プランです。例えば、こどもが熱を出したり風邪を引いた時、会社で働く親の代わりにこどもの面倒を見るプランであるとか、家が貧しいことなどを理由に大学に行けない人を経済的に支援するといったプランです。もちろんこうしたプランは有効だし、必要なものですが、それだけで社会変革が実現したわけではありません。生きにくい人の状況を変えることによって、その人を社会に適合させるプランで終わってはいけないのです。社会起業家が変えるべきは「社会」です。「生きにくい社会」の方をどうやって変えるのか、そういう視点こそ、チェンジメーカーには持って欲しいし、edgeにエントリーする起業家には大事にしてほしいと考えています。

私は15年前に阪神・淡路大震災で被災した外国人に情報提供する活動をしていました。「日本語のわからない外国人が日本で暮らすのはおかしい」とか、「生きにくいのは日本語を学ばない外国人のせいだ」と考える人も少なくない中、多くのNPOは外国人に日本語を教えようとしてきました。しかし、私は日本を多言語・多文化な社会にしようという視点から活動に取り組んできました。「生きにくさ」を感じる人がいるのなら、生きにくさを感じさせない社会をつくっていくこと、つまり社会の側が変わっていくべきではないでしょうか。どうしたら「生きにくい」人も「生きやすい」社会になるのか。生きにくい人に下駄を履かせて適合させるプランがこれまでの社会起業家のプランの代表例でしたが、これからは社会そのものを変えていくようなアプローチを、ぜひ考えていただきたいと思います。

 

■ edgeが提供できるもの

では、これからチャレンジするみなさんに、edgeが提供できるものは何か。私たちは複数のサポート体制を用意しています。

まずひとつ目は、「実践者やサポーターとの出会い」を存分に提供します。嫌だといわれても提供します。edgeで大事なことは、運営に携わる私たちが社会起業の実践者だということです。自分たちで起業してきた経験をベースに、プレイヤーに必要な実践者やサポーターとの出会いを提供します。

二つ目は、「失敗例、成功例の共有」です。私自身、15年間活動してきて、もっとも教えてほしかったことは失敗例です。「そういうことをやらなきゃよかった」ということを教えてほしかったと思います。私たち先輩プレイヤーから「失敗例」も惜しげなく共有します。

三つ目は、「多様な視点からのプラン磨きのお手伝い」。edgeには多様な分野で活躍する実践者や、異なる分野に専門性を持つサポーターがそろっています。さまざまな視点から、みなさんのプランをしっかり磨くことができます。

最後は、「社会起業家コミュニティへの参加の機会」です。社会起業家を目指してedgeのプログラムに参加してきた人たちが、いずれは、後に続いていく社会起業家を育成していく立場になっていく、そんなコミュニティをつくりたいと考えています。一人では社会は変えられません。だから一人でも多くの人に一緒に社会を変えていくメンバーになってほしい。みんなで社会を変えていこうというこのコミュニティに参加してほしいと思っています。これらがedgeの提供できるものです。

これまでedgeで、ビジネスプランを持ってきた人とたくさん会ってきました。自分のことは自分が一番よくわかっていると思っている人も多かったのですが、私たちから見てみると、全然違うものが見えるんです。そんな人ばかりでした。自分から見ることのできる範囲は限られています。だからこそ、いろんな人と出会って、いろんな人の話を聞いて、そういう経験を生かしてほしい。edgeというところは、いろんな人が見てくれるので、いろんな自分がわかります。ここでぜひ新しい自分を見つけて、本当に社会を変えてほしいと思っています。ぜひedgeにチャレンジしてください。私たちもみなさんともに社会変革にチャレンジしたいと思います。(終)